「平和ってなんだろう」(足立力也)①

見えてくるのはどこかの国の歪な形

「平和ってなんだろう」
 (足立力也)岩波ジュニア新書

コスタリカ共和国を知っていますか。
軍隊を放棄したことで有名な国です。
私は本書を読むまで、その位置すら
理解していませんでした。

「私は五年生のクラスで、
 学級委員をやっていた少女に
 「平和って何?」と質問してみた。
 その答えを聞いて驚いた。
 彼女は迷わず
 「民主主義・人権・環境」と答えたのだ。」

本書は、この3つの柱に沿って
コスタリカについて語られたものです。

それにしても小学生の口から
「民主主義」という単語が出てくるとは、
コスタリカおそるべし。
OECDの学習到達度調査での
順位向上に躍起になっている
どこかの国の小学生からは
絶対に聞くことのできない
単語ではないでしょうか。
いや、大人でさえ、
そんな言葉を口にすれば
煙たがられるでしょう。

その秘密は、国政選挙に付随する、
いくつかの教育的制度にあるようです。

コスタリカの選挙は、
まるでお祭りのような
騒ぎなのだそうです。
それも子どもたちを巻き込んで。
なんと、国政選挙に際して
「未成年者投票」が行われる、
17歳以下の子どもたちが
本物そっくりの投票用紙を使って
実際に投票を行う、
その投票結果は
後日当選した大統領にも報告される、
というのです。
「選挙権がないということは、
 投票権がないということまで
 意味しない」

コスタリカの子どもたちは
こうして選挙によって
政治に関わることの重要性を
肌で感じていくのでしょう。

選挙権を18歳まで
引き下げたにもかかわらず、
高校生の政治的活動を
あらゆる方法で制限しようとする
どこかの国とは大きなちがいです。

筆者が取材した
コスタリカの役人の言葉です。
「まず、投票するということは、
 私たちにとって
 重要な価値観なのです。
 民主主義にとって投票は
 第一義的に重要です。」

大切なのは民主主義が
煙たいものでも形だけのものでもなく、
私たちにとって
かけがえのないものであるという
意識の醸成なのでしょう。

筆者は「民主化こそ社会の軍事化から
逃れる唯一の手」だと説きます。
裏を返せば、
民主主義が失われたとき、
その社会は軍事化を始める、とも
受け取ることができます。

憲法解釈の強引な変更、
報道機関への威圧的な姿勢等、
やはりどこかの国の
政府と社会の在り方を
思い浮かべてしまいます。

コスタリカの社会や
人々の考え方を綿密に取材し、
詳細に紹介している本書を読みながら、
なぜか見えてくるのは
どこかの国の歪な形でした。

(2018.11.1)

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